1. 結論サマリー(二層構造で理解する)
課税の根拠条文=相続税法3条1項2号(退職手当金等。施行令1条の3で明示列挙) と 評価方法=同24条(定期金に関する権利の評価) は別レイヤーです。「2号だから非課税枠が使える」ことと「評価は24条の定期金評価による」ことは矛盾なく両立します。
- 確定経過的職域加算額の遺族給付は相続税の課税対象(所得税は非課税)。
- 論点年金形式の給付を2号(退職手当金等)とみるか6号(契約に基づかない定期金)とみるかで、退職手当金等の非課税枠(500万円×法定相続人数)の可否が分かれる。
- 法令解釈政令(施行令1条の3)の明示列挙+6号本文の除外規定により、B説(2号・非課税枠あり)が法令上優位。
- 実務ただし本論点を決着させた公表先例(裁決・裁判例・質疑応答事例)は確認できず、窓口でA説(6号・非課税枠なし)と回答されるリスクが残る。
★ まずここを分ける:本体部分 と 経過的職域加算部分
遺族共済年金は2つの部分から成り、相続税の扱いと根拠条文がまったく異なります。ここを最初に切り分けないと、以降の「死亡時期」や「A説・B説」の議論が混ざって分かりにくくなります。
| 給付の部分 | 相続税の扱い | 根拠条文 |
本体部分 遺族基礎年金・遺族厚生(報酬比例)相当=旧1階・2階 |
非課税・申告対象外 各法の「公課の禁止」により課税されない |
相基通3-46/厚生年金保険法41条1項(共済では改正前共済各法の公課禁止) |
経過的職域加算部分 旧3階・職域年金相当(一元化前の組合員期間に対応) |
相続税の課税対象(みなし相続財産) 退職手当金等として取り込み+非課税枠あり/評価は24条 |
施行令1条の3 → 相続税法3条1項2号/非課税枠 12条1項6号/評価 24条1項3号 |
読み方の注意:このページの「在職中/受給開始後(死亡時期)」や「A説・B説(2号か6号か)」の議論は、すべて「経過的職域加算部分」の中だけの話です。本体部分は最初から非課税で、これらの議論には入りません。
2. 制度の沿革(一元化前後)
被用者年金一元化(一元化法=平成24年法律第63号、平成27年10月1日施行)により共済年金は厚生年金保険へ統合され、共済年金の3階部分(職域年金相当部分=俗称「職域加算」)は廃止されました。これに伴い旧3階部分は2系統に分かれます。
- 経過的職域加算額:平成27年9月以前の組合員期間に対応する経過給付(旧法の規定がなお効力を有する形で支給継続)。
- 退職等年金給付(年金払い退職給付):平成27年10月以降の組合員期間に対応する新制度。
| 項目 | 一元化前(〜H27.9) | 一元化後(H27.10〜)の経過的職域加算(遺族給付) |
| 所得税 | 非課税 | 非課税(所得税法9条1項3号) |
| 相続税 | 非課税(各共済法の公課の禁止) | 課税対象(みなし相続財産=退職手当金等) |
| 根拠 | 改正前の共済各法の公課禁止規定 | 公課禁止の対象から除外+相続税法施行令1条の3に明示列挙 |
※ 本体部分(遺族基礎年金・遺族厚生年金相当)は引き続き公課の禁止により相続税は非課税で、申告対象外です。
3. まず押さえる2点
確定課税対象であること自体は争いがない。経過的職域加算額の遺族給付は所得税非課税(所得税法9条1項3号)だが相続税は課税対象(相続税法施行令1条の3。各共済組合の公表資料も「相続税の課税対象」と明記)。本体の遺族厚生年金は厚生年金保険法41条1項の公課禁止により相続税非課税・申告対象外。
論点争点は「どの号で課税するか=非課税枠が使えるか」。2号(退職手当金等)なら非課税枠あり・申告書第10表、6号(定期金に関する権利)なら非課税枠なし・第11表。評価方法はどちらでも24条で同じ。
4. 条文の連鎖(6ステップ)
① 入口 退職年金を受けていた者の死亡で遺族が継続受給する権利は、原則3条1項6号(契約に基づくもの以外の定期金に関する権利)でみなし取得(相基通3-29)。
② 本体は非課税 遺族基礎・遺族厚生(2階)相当は6号に当たるが、各法の公課の禁止で相続税は課税されない(相基通3-46。厚生年金保険法41条1項、共済では改正前共済各法の公課禁止規定)。
③ 分岐 6号本文の括弧書き「(第2号に掲げる給与に該当するものを除く。)」+相基通3-47により、定期金形式でも退職手当金等の実質を持つものは2号へ。
④ 取り込み 政令=施行令1条の3が、経過的職域加算の遺族給付を退職手当金等として明示列挙(柱書「次に掲げる年金又は一時金に関する権利」)。
⑤ 帰結 本体と異なり公課禁止の傘の外=課税対象。2号の退職手当金等なので非課税枠(12条1項6号・500万円×法定相続人数)が適用(=B説)。
⑥ 評価 ただし支給形態が終身年金なので、価額は24条で評価する。
5. 共済3制度別の法令連鎖
共済の種類によって、施行令1条の3の号と旧法の条番号・経過措置の附則が異なります(構造は共通)。
| 共済制度 | 旧法の遺族共済年金 | 一元化法附則(経過措置) | 施行令1条の3 |
| 国家公務員共済(KKR等) | 旧国共法88条1項 | 附則36条系・37条系 | 第1号 |
| 地方公務員共済(警察・公立学校・市町村等) | 旧地共法99条1項 | 附則60条3項 | 第2号 |
| 私学共済 | 旧私学共済法25条による旧国共法88条1項の準用 | 附則78条系 | 第3号 |
※ いずれも経過措置政令(平成27年政令第345/347/348号)を経て施行令1条の3に列挙される構造。所属共済を取り違えると号がずれるため要注意(例:警察共済は地方公務員等共済組合法に基づくので第2号)。
6. パターン比較(在職中死亡 / 受給開始後死亡)
※ 以下はすべて「経過的職域加算部分」の中での号の振り分けの話です。本体部分(非課税)はこの比較に入りません。
| 項目 | 在職中(受給開始前)死亡 | 受給開始後死亡(本論点) |
| 遺族が受け取るもの | 遺族一時金または遺族共済年金として支給開始 | 遺族共済年金(経過的職域加算額)の継続受給 |
| 号の区分 | 2号で確定(争いなし) | 2号が正解(B説)/6号と誤解されがち(A説) |
| 非課税枠 | 適用OK | 適用OK(B説)/NG(A説) |
| 評価 | 一時金額または24条1項3号 | 24条1項3号 |
民間の確定給付企業年金(DB)・確定拠出年金(DC)では「受給開始後死亡=6号・非課税枠NG」が実務通説。この理屈を経過的職域加算へ機械的に延長してはいけません。経過的職域加算は施行令1条の3で「年金として遺族が継続受給する権利」自体が退職手当金等として取り込まれており、民間DB/DCとは取り込まれ方が異なります。
7. 核心:A説・B説の比較
※ A説・B説の対立は「経過的職域加算部分」をどの号で課税するかの話です(本体部分は非課税で対象外)。
法令解釈上 優位
B説:2号・退職手当金等(非課税枠あり)
- 根拠:施行令1条の3(明示列挙)+通達3-47
- 区分:相続税法3条1項2号
- 非課税枠:あり(12条1項6号、500万円×法定相続人数)/第10表
窓口で示されることがある立場
A説:6号・定期金に関する権利(非課税枠なし)
- 根拠:通達3-29(退職年金の継続受取人の権利は6号)
- 区分:相続税法3条1項6号
- 非課税枠:なし/第11表
8. なぜB説が法令上強いのか(政令>通達)
ポイントは 「法律 > 政令 > 通達」 という法令のヒエラルキーです。
STEP1 相続税法3条1項2号は「退職手当金…(政令で定める給付を含む)」と政令へ委任。
STEP2 政令=施行令1条の3が、共済の経過的職域加算遺族給付(年金形式を含む)を退職手当金等として明示列挙。
STEP3 3条1項6号本文の括弧書き「(第2号に掲げる給与に該当するものを除く。)」により、2号該当分は6号から明文で排除。
STEP4 A説の根拠とされる通達3-29は法源(法律・政令)ではなく行政内部の解釈にすぎず、政令に劣後する。
通達3-29の射程(誤用されやすい点)
3-29が想定するのは「被相続人が受給していた年金を相続人が"継続"受給する承継ケース」です。死亡により新規発生する遺族固有の権利は性質が異なり、本来3-29は及びません。3-29は昭和46年追加の古い通達で、当時は施行令1条の3に経過的職域加算は存在しません(一元化は平成27年)。3-29が原則・3-47が特則という関係で理解するのが自然です。
立法意図との整合
一元化対応で政府は「公課禁止から除外+施行令1条の3で退職手当金等に取り込み」を行いました。立法者が「退職手当金等として課税する」と決めた以上、退職手当金等に付随する非課税枠もセットで適用されると解するのが立法意図に整合します。「課税だけ取り込み非課税枠は除外」は法律の構造上できません。
9. 終身定期金としての評価方法(相続税法24条1項3号)
年金形式の遺族給付の価額は、終身定期金として次の3つのうちいずれか多い金額で評価します。
- (イ) 解約返戻金相当額
- (ロ) 定期金に代えて受けられる一時金の金額
- (ハ) 1年当たり平均額 × 受給者の余命年数に応ずる予定利率(基準年利率)による複利年金現価率
契約に基づかない共済給付では(イ)(ロ)が存在しないのが通常で、その場合は(ハ)の予定利率方式一本で評価します。
| 要素 | 取り方 |
| 1年当たり平均額 | 年金決定通知書の年金額(在職支給停止前の決定額をベースにするのが原則) |
| 余命年数 | 受給者の課税時期の年齢・性別に応じた完全生命表の平均余命を1年未満切捨て(相続税法施行規則12条の3、財産評価基本通達200-3) |
| 予定利率 | 課税時期の属する月・区分(短期/中期/長期)の基準年利率(財産評価基本通達24-3) |
| 複利年金現価率 | 余命年数と予定利率に対応する率(国税庁の複利表) |
評価額 = 1年当たり平均額 × 複利年金現価率(円未満切捨て)
一般的な計算例(数値はすべて仮の例示)
仮に、年金額が年20万円、受給者の余命年数が10年、基準年利率に対応する複利年金現価率が9.000とすると、評価額は 200,000円 × 9.000 = 1,800,000円。法定相続人が2名なら退職手当金等の非課税枠は1,000万円となり、この評価額は枠内に収まる、といった当てはめになります(B説)。※ 上記の数値は説明のための仮例で、実際の評価は個別の年金額・余命・基準年利率により異なります。
10. 非課税枠の「相続人取得要件」の制約
相続税法12条1項6号の非課税枠は「相続人の取得した退職手当金等」が対象です。受給者が相続人かどうかで適用が分かれます(通達12-10により保険金の12-8・12-9を準用)。
| 受給者 | 非課税枠 | 備考 |
| 配偶者・子(相続人) | ○ 適用 | 最頻出 |
| 父母(第2順位の相続人) | ○ 適用 | 配偶者・子がいないとき |
| 孫(代襲相続人) | ○ 適用 | 民法上の相続人 |
| 相続放棄者 | × 不適用 | 放棄者個人は枠を使えない(全額課税) |
| 内縁配偶者・代襲でない孫 | × 不適用 | 共済法上は受給可だが民法上の相続人でない |
※ 非課税限度額の「法定相続人の数」は放棄者を含めて計算(相続税法15条2項)。ただし放棄者個人は枠を使えません。
11. 実務対応フロー
1
当該給付が一時金か年金かなど支給の実態を支給決定通知で確定する。
2
共済組合へ「退職手当金等受給者別支払調書」の発行の有無・記載を照会する。発行ありなら共済自身が退職手当金等(2号)と認識している有力な証拠(相続税法59条1項2号)。
3
所轄税務署へ事前相談し、回答者・日時を記録化する(文書回答制度は申告期限に間に合いにくい)。
4
根拠が揃えばB説で申告し根拠書面を添付(施行令1条の3・通達3-47・各共済の公表ガイド・支払調書)。争いを避けるならA説で申告し、法定申告期限から5年内の更正の請求を温存する。
12. 主な根拠条文・通達・政令
法相続税法3条1項2号(退職手当金等)
法相続税法3条1項6号+本文括弧書き(2号該当分を除外)
法相続税法12条1項6号(非課税枠 500万円×法定相続人数)
法相続税法15条2項(法定相続人の数)
法相続税法24条1項3号(終身定期金の評価)
政令相続税法施行令1条の3(退職手当金等に含まれる給付)
省令相続税法施行規則12条の3(余命年数の端数処理)
通達相基通3-29(退職年金の継続受取人=6号・承継ケース)
通達相基通3-46(契約に基づかない定期金の意義・公課禁止)
通達相基通3-47(定期金形式の退職手当金等=2号)
通達相基通12-8/12-9/12-10(非課税枠の按分・準用)
通達財産評価基本通達24-3(予定利率)/200-3(完全生命表)
法厚生年金保険法41条1項(公課禁止)
法所得税法9条1項3号(遺族年金の非課税)
法一元化法(平成24年法律第63号)附則(職域加算経過措置)
法改正前の共済各法の公課禁止・遺族共済年金規定
13. 留保事項
- 本論点を正面から決着させた公表裁決・裁判例・国税庁質疑応答事例は確認できません。窓口では安全側(課税が広いA説)に流れやすく、解釈が分かれ得ます。
- 公課の禁止規定や一元化法附則の条番号は改正・資料により表記差があります(例:国家公務員共済の公課禁止は改正前50条/現行49条)。引用時はe-Govの正文で最終確認してください。
- 受給者が「相続人でない遺族」の場合、非課税枠は適用されません(第10章)。
本ページは経過的職域加算額に係る遺族給付の相続税の取扱いに関する一般的な論点整理(完全網羅版)であり、特定の個人・案件の情報は含みません。本論点は公表先例が乏しく解釈が分かれ得ます。実際の申告にあたっては、最新の法令・通達を確認し、個別事案の事実関係に即して税理士へご相談ください。