はじめに(制度の位置づけ)
被用者年金一元化(平成27年10月)前の共済組合員期間を有する方については、共済年金の旧3階部分(職域年金相当部分)が
「経過的職域加算額」として支給されます。その遺族給付(遺族共済年金の経過的職域加算額)について、
相続税でどう扱うか――とりわけ 退職手当金等の非課税枠(500万円×法定相続人数)が使えるか――が実務上の論点になります。
本ページは一般的な論点整理です。
まず押さえる2点
確定課税対象であること自体は争いがない。
経過的職域加算額の遺族給付は、所得税は非課税(所得税法9条1項3号)ですが、相続税は課税対象です
(相続税法施行令1条の3。各共済組合の公表資料も「相続税の課税対象」と明記)。
一方、本体の遺族厚生年金(2階部分)は厚生年金保険法41条1項の公課禁止により相続税は非課税で、申告対象外です。
論点争点は「どの号で課税するか=非課税枠が使えるか」。
年金形式の給付を相続税法3条1項2号(退職手当金等)とみるか6号(契約に基づかない定期金に関する権利)とみるかで、
非課税枠の可否が分かれます。
核心:A説・B説の比較
法令解釈上 優位
B説:2号・退職手当金等(非課税枠あり)
- 根拠:政令=相続税法施行令1条の3が退職手当金等に明示列挙+基本通達3-47
- 区分:相続税法3条1項2号
- 非課税枠:あり(12条1項6号、500万円×法定相続人数)/申告書 第10表
窓口で示されることがある立場
A説:6号・定期金に関する権利(非課税枠なし)
- 根拠:基本通達3-29(退職年金の継続受取人の権利は6号)
- 区分:相続税法3条1項6号
- 非課税枠:なし/申告書 第11表
深掘り① なぜB説が法令上強いのか(政令>通達)
ポイントは 「政令(施行令)> 通達」 という法令のヒエラルキーです。
STEP1 相続税法3条1項2号は「退職手当金…(政令で定める給付を含む)」と政令へ委任。
STEP2 その政令=施行令1条の3が、共済の経過的職域加算の遺族給付(年金形式を含む)を退職手当金等として明示列挙(所属共済により号が異なる:国家公務員=第1号/地方公務員=第2号/私学=第3号)。
STEP3 相続税法3条1項6号の本文括弧書き「(第2号に掲げる給与に該当するものを除く。)」により、2号該当分は6号から明文で排除。
STEP4 A説の根拠とされる通達3-29は法源(法律・政令)ではなく行政内部の解釈にすぎず、政令に劣後する。
通達3-29の射程(誤用されやすい点)
3-29が想定するのは「被相続人が受給していた年金を相続人が"継続"受給する承継ケース」です。
死亡により新規に発生する遺族固有の権利(遺族共済年金)は性質が異なり、本来3-29は及びません。
A説は、民間企業年金で確立した「年金受給開始後の死亡=6号」という二分法を、政令で別扱いされた共済給付に当てはめているとみる余地があります。
→ 法令解釈としてのB説の確信度は「中〜やや高」。6号括弧書きの明文排除+政令の明示列挙+政令優位+3-29の射程限定が一貫してB説を指します。
深掘り② 実務の決め手=支払調書/ただし先例は不在
この論点を正面から決着させた公表裁決・裁判例・国税庁質疑応答事例は確認できません。
先例が無いため、窓口では安全側(課税が広いA説)に流れやすく、これが説の割れる一因です。
最もコスパの良い一手:支払調書の確認
共済組合が「退職手当金等受給者別支払調書」を発行していれば、共済自身がその給付を
退職手当金等(2号)と認識している強力な証拠になり、B説を後押しします(相続税法59条1項2号)。
発行されていなければ6号に流れやすくなります。まず共済組合へ発行の有無・「種類」欄の記載を照会するのが有効です。
終身定期金としての評価方法(相続税法24条1項3号)
年金形式の遺族給付の価額は、終身定期金として次の3つのうちいずれか多い金額で評価します。
- (イ) 解約返戻金相当額
- (ロ) 定期金に代えて受けられる一時金の金額
- (ハ) 1年当たり平均額 × 受給者の余命年数に応ずる予定利率(基準年利率)による複利年金現価率
契約に基づかない共済給付では(イ)(ロ)が存在しないのが通常で、その場合は(ハ)の予定利率方式一本で評価します。
計算の考え方(一般的な式)
| 要素 | 取り方 |
| 1年当たり平均額 | 年金決定通知書の年金額 |
| 余命年数 | 受給者の課税時期の年齢・性別に応じた完全生命表の平均余命を1年未満切捨て(相続税法施行規則12条の3、財産評価基本通達200-3) |
| 予定利率 | 課税時期の属する月・区分(短期/中期/長期)の基準年利率(財産評価基本通達24-3) |
| 複利年金現価率 | 余命年数と予定利率に対応する率(国税庁の複利表) |
評価額 = 1年当たり平均額 × 複利年金現価率(円未満切捨て)
実務上の対応フロー
1
当該給付が一時金か年金かなど、支給の実態を支給決定通知で確定する。
2
共済組合へ「退職手当金等受給者別支払調書」の発行の有無・記載を照会する(B説の根拠固め)。
3
所轄税務署へ事前相談し、回答者・日時を記録化する(文書回答制度は申告期限に間に合いにくい)。
4
根拠が揃えばB説で申告し根拠書面を添付(施行令1条の3・通達3-47・各共済の公表ガイド・支払調書)。争いを避けるならA説で申告し、法定申告期限から5年内の更正の請求を温存する。
主な根拠条文・通達
相続税法3条1項2号(退職手当金等)
相続税法3条1項6号+本文括弧書き(2号該当分を除外)
相続税法12条1項6号(非課税枠 500万円×法定相続人数)
相続税法24条1項3号(終身定期金の評価)
相続税法施行令1条の3(退職手当金等に含まれる給付)
相続税法施行規則12条の3(余命年数の端数処理)
相続税法基本通達3-29(退職年金の継続受取人=6号・承継ケース)
相続税法基本通達3-46(契約に基づかない定期金の意義)
相続税法基本通達3-47(定期金形式の退職手当金等=2号)
財産評価基本通達24-3(予定利率)/200-3(完全生命表)
厚生年金保険法41条1項(公課禁止)
所得税法9条1項3号(遺族年金の非課税)
本ページは経過的職域加算額に係る遺族給付の相続税の取扱いに関する一般的な論点整理であり、特定の個人・案件の情報は含みません。
本論点は公表先例が乏しく解釈が分かれ得ます。実際の申告にあたっては、最新の法令・通達を確認し、個別事案の事実関係に即して税理士へご相談ください。